脳出血した中高年のための怪談100物語 更新中です。 怪談はあなたと私をつなぐ、1話2000字のコミュニケーションツール 広告

100-18 近道

100-18 近道

「どうしても納得がいかないんです。

先生、私になにが起きたのか、説明してくれませんか」

 

誠のところへ相談にやってきたのは、中年の男性だった。

身に覚えのないミスで仕事で恥をかかされたという。

もう数ヶ月前の出来事だが、本人はいまだに思い出すと怒りがこみあげてくると言う。

 

「私はいままで会社を遅刻したことは一度もありませんでした。

入社以来、一度もです。

これは私にとっては誇りでした。

誰でもできることですが、でも、みんな時にはつい遅れてしまったりしますよね。

私は、それだけはないように、いつも気をつけてきたんです」

 

「素晴らしいですね」

 

誠は合いの手を入れながら、話を聞いた。

 

「派手な業績はなくても、社会人として大切なことを大事にしてきたつもりです

 

「たしかに」

 

「それがです。

関西の本社へ出張することになったのです」

 

「はい」

 

「東海道新幹線で新大阪駅までいって、そこから乗り換えてNにある、本社へ行く、日程でした」

 

「お一人で行かれたのですか」

 

「一人でした」

 

彼はその日、夕方まで、会社で通常勤務をした後、夜の新幹線で大阪へむかったのだそうだ。

約束の打ち合わせは、翌日の午前に行われるので、夜のうちに大阪入りして、本社の社員寮で一泊するのだとのこと。

 

「本社への出張は初めてでしたので、迷わないように、上司に大阪駅からNまでのアクセスもくわしく聞いていきました」

 

新幹線が新大阪に着くと、彼は駅構内を歩いて、N行きの電車がでるホームへとむかった。

しかし、後で思うとその時からおかしかった。

 

「駅の通路の掲示板に従って歩いていたはずなのに、気づいたら、私の周囲には誰もいなくなってました。

平日の夜、9時すぎですが、新大阪の駅であんなふうになるなんでて、へんですよね。

おかしいなぁ、とは思ったんです。

通路を歩けべ歩くほど、薄暗く、細い通路になっていく。

ぐるぐると階段を下りたりする。

掲示板通りにJRの駅を歩いている感じじゃないんです。

まるで、知らない街の中をさ迷っている感じ」

 

彼の体感時間では、30分以上、歩いたらしい。

ふと、気づくといつの間にかホームに来ていた。

周囲にはたくさんの乗客がいて駅員もいた。

 

「すみません。Nへ行きたいんですが」

 

駅員にたずねると、なにを言っているんだ、という感じで答えてもらえなかった。

失礼な駅員だと腹を立てたが、すぐに、側にいたサラリーマン風の乗客が声をかけくれた。

 

「N駅なら、ここですよ」

 

「え」

 

「Nへ行きたいなら、ここがNですわ」

 

言われてみて周囲を見回してみると、たしかにここはN駅らしい。

いつの間にか、彼はN駅についてしまったのだ。

電車に乗った記憶はない。

ただ、新大阪駅で迷っていただけだ。

時計をみると、なんと、本社の人間とおちあうはずの時間は、とっくにすぎていた。

あれだけ余裕を持ってここまできたのに、なんてことだ。

 

「近道はしたんですけど、時間を奪われたんですよ。

これは、いったい」

 

一通り話を聞いた誠にも、彼の納得のいかない気落ちが伝わってきた。

しかし、

 

「あなたがもし、本来なら人間が歩かない道に迷い込んだのなら、無事に元の世界に出て来られて、幸運だったと思いますよ」

 

「新大阪駅には、あんな異界への道があるんですか。

あの後、地図で調べたりもしたのですが、新大阪駅のどこにも、あの日、私が歩いた通路は存在しないはずなんですよ。

私はいったい」

 

「日本では、現在、年間8~10万人の人が行方不明になっています。

僕には、いまのお話は、あなたが、その中の1人になりかかった体験談だと思いました。

僕の解釈はおかしいですか?」

 

「それじゃ、先生は、私が戻って来れて幸運だったと」

 

彼は釈然としない顔をしていたが、

 

「だって、いまのお話だと、あなたの新大阪からNまでの電車賃は、使わずに済んだんですよね。これは、得といえば得したじゃないですか」

 

彼はスマホをにらみ、手早く液晶を操作した。

 

「540円の、得か」

 

ネットで新大阪駅、N間の運賃を調べたらしい。

 

「社員生活の初の遅刻は、540円と怪異付きで、まぁ、いいじゃありませんか」

 

誠が意識して明るく言い放った。

相手は、まずものでも食べたような表情でゆっくり頷く。

 

 END

 

☆☆☆☆☆

 

18話めは以上です。

この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。

会社員時代に大阪出張での私の体験談です。

新大阪駅でまじめに迷いました。

人気のない地下通路や螺旋階段を歩きました。

歩きながら、こんな駅あるかよ、と思ったのをおぼえています。

気づくと駅のホールにいました。 

私が普段から思っている、わざわざ有名なところまでいかなくても、その人が出逢うべき運命の怪異は、日常の中にある、という出来事でした。

 

昨日はみぞれが降りました。今日も寒いです。

 

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