脳出血した中高年のための怪談100物語 更新中です。 怪談はあなたと私をつなぐ、1話2000字のコミュニケーションツール 広告

いおちゃん 二

信良が孝義のマンションを訪ねたのは、孝義の処分が不起訴に終わってから、数か月後だった。

 

「やあ、菅原さん。ひさしぶりだね。心配かけて、ごめん」

 

今回の件でアイドル暴行犯として、マスコミに広く報道された孝義は、どこかすっきりした顔をしていた。

望月孝義は、写真週刊誌に、蒼月いおとの密会をスクープされた男性アイドル筑波つばさを単独で襲撃し、全治二週間のケガを負わせた容疑で逮捕されたのだ。

結局、不起訴処分で終わったが、一芸能人として考えると、蒼月いおよりも、よほど知名度が高く、多くのファンを持つ、つばさを襲ったことで、孝義はいまや大有名人になっていた。

刑務所を出所してからは、普通のアルバイトをしながら、自分の時間を大事にして、大人しく暮らしていた菅原信良もマスコミのTVでの報道を見るうちに、孝義が心配になってこうして会いにきたのだ。

 

「望月さん、お久しぶりです。連絡しなくてすいませんでした。僕、刑務所である博士出会って、博士は、同じ受刑者の人なんですけど、その人にいろいろ教えて頂いて、それに夢中になってて、こっちのいおちゃんのことは、望月さんに任せておけば大丈夫だって信じてて、まさか、望月さんが」

 

「まぁまぁまぁ、中へ入ってよ。俺も菅原さんと連絡取れなくて、ずっと気になってたんだよ。AUCのファンクラブもやめちゃったままだったし、どこか遠くへ行っちゃったのかとおもったよ」

 

(行っちゃってましたよ。気持ちははるか遠くへね)

 

孝義に案内されて、信良は、きれいに片付いた彼の部屋のリビングのソファーに腰をおろした。

 

「この部屋、前はAUCのグッズがたくさんおいてあったんだけど、ポスターも全部はがしたし、グッズは処分したよ。

俺は今回の件で誰よりも同じAUCファンのみんなに申し訳ないことをしたと思ってるんだ。

俺は、いおちゃんが、好きだ。

でも、だからといって彼女が一女性と親しくなった男性に暴力を振るう権利なんか俺にはない。

いくら応援していたって、それはファンとして絶対にやっちゃいけないことだったんだ」

 

(望月さん。あなたはなにも悪くないよ。

筑波つばさってやつがファンや他の芸能人にもひょいひょい手をだす、ツラがいいだけのクソ野郎だってのは、TVのワイドショーなんかで僕もよく知っています。

僕が、筑波の側にいたら殺してた)

 

「望月さんは、なんにも悪くないですよ。

当たり前のことをしただけです。筑波に日頃の行いを抗議して、あいつがヘラヘラしてたんで、二三発、叩いただすよね。

そんなのAUCのファンなら誰でもやりますよ」

 

この問題について、信良は、孝義にはまっく非はないと思っている。

 

(責められるのは、事務所だ。

いおちゃんみたいな天使を預かっているんだから、ヘンなのが寄ってこないように、しっかり守らなきゃいけないのに。

あんな男が近づいて雑誌にスクープまでされるなんて、望月さんは、AUCファンみんなの声を代表してやってくれたんだ。

ファンも事務所も勇気ある行動に感謝すべきだ)

 

「いやいやいやいや。反省してるよ。

社会人として40過ぎの、50近い男として、俺はAUCに夢中になりすぎてたよ。

筑波くんの後をストーカーみたいに追いかけたりしてさ。

力づくで直談判までして、自分で自分に呆れるよ。

起訴されなかったのも、彼の方から警察に言ってくれたらしくてさ。

俺も、彼といおちゃんの両方に詫び状を書いたよ。

返事はきてないけどね。読んでくれてるといいな」

 

(詫び状? あれで詫び状を書く必要があるなら、僕は、望月さんは、謝らなければならない。

僕は、望月さんたちAUCファンのみんなに内緒で、いおちゃんにとんでもないことをしてしまった)

 

「望月さん。すいませんでした!!」

 

いきなり、フローリングの床に降りて土下座した信良に、孝義は目をまるくした。

 

「菅原さん。突然、どうしたの? やめてよ。俺ときみは仲間だったはずだろ。謝るのは俺の方だよ」

 

「違うんです。僕は、謝んなきゃいけないんです。

僕、いおちゃんとキスしました。

Hもしました。

何度もしました。

僕が初めての相手だったんで、いおちゃんだんだんHもおぼえて、いやらしいことも好きになってくれました」

 

(僕は世界の誰より蒼月いおとHした男だ。まだ妊娠はさせてないけど)

 

「菅原さん。なに、言ってるの? ねぇ。俺はたしかにファン失格の行動をした男だけど、でも、俺は、俺だって、AUCが、いおちゃんが大好きで、ねぇ、なぁ、菅原さん、それは知ってるはずだろう、だったら、だったら」

 

ぶつぶつとつぶやき続ける孝義の前で、信良は頭を下げ続けた。

孝義になら殴られても文句を言う気はなかった。

 

(望月さん。すみません。僕はいおちゃんとHしました。一緒に暮らしてます。望月さん。他のファンのみんな、すみません)

 

土下座し続ける信良とつぶやくのをやめない孝義。

そのまま数分間が過ぎた。

そして、蒼月いおのソロデビュー曲、「ブルームーンで会いましょう」のイントロが響いた。

信良のスマホの着うただ。

信良は土下座した格好のまま、上着に手を入れ、自分のスマホを取り出すと、孝義にそれを渡した。

 

「いおちゃんからです。でてください」

 

孝義は黙ってスマホを受け取り、電話にでた。

 

「もしもし、菅原信良さんのスマホですよね?」

少しふわふわした感じの、それでいて涼しげな若い女性の声。

 

「いお、ちゃん?」

 

孝義はつぶやいていた。

これまで何度もLIVEで、CDで聞いてきた声だった。

間違いようがない。

 

「はぁい、蒼月いおです。あなたは、望月孝義さんですね。いつも応援ありがとう!!」

 

握手会や他のイベントで会う時と同じイントネーションでそう言われて、孝義はなにも言えくなった。

 

「もしもーし、望月さぁん。なんかしゃべってくださぁい。いお、困りますよぉ。あのー、そちらに菅原さんがお邪魔してますよねぇ。くわしい事情は、菅原さんに聞いていただくとして、いおは望月さんにお会いしたいですよ。望月さんはいおのこと嫌いですかぁ?」

 

「そ、そんなわけあるわけないじゃないか!」

 

孝義はようやく声を絞り出した。

会話の途中なのに、スマホを信良へ返す。

 

「菅原くん、これはなんだ?この人は誰だ?」

 

信良はようやく顔をあげた。

 

「蒼月いおちゃんに決まってるじゃないですか。僕はいおちゃんを創ったんですよ。

刑務所で知り合った博士に教えて頂いたんですよ。

理想の人間の創り方を」

 

信良の言葉を孝義は、否定しなかった。

黙って続きを待っている感じだ。

 

「望月さん。いまから僕の部屋へきてもらえますか?いおちゃんもあなたに会いたがっているし、僕もあなたに会って欲しい。それに、僕には残された時間は少ないんです」

END

☆☆☆☆☆

第二部は以上です。
全体で三部か四部になる予定です。

お読みいただき、ありがとうございました。

 

この小説のジャンルは、ゴシックパンク(僕の造語)です。

ゴシック趣味のパンクな感じだと思っていただけるとうれしいです。

くわしくは、完結時に。

これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。

 

 

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