脳出血した中高年のための怪談100物語 → 鈴木誠の怪談100物語の タイトルで小説投稿サイト、アルファポリスと同時更新中です。 サイドバーに「アルファポリスリンク」へのリンクがあります。 広告

100-23 霊能者-5

100-23 霊能者-5

 

夏休みのある日、俺は友達とザリガニをとりに行くことにした。

N県のそこの地区は山の中で、森と林と田んぼしかなくて、大きな町なんてものは存在せず、どこもかしこも木に囲まれているような土地だった。

その日、俺たちは、普段、遊び場にしているところから少し離れた沼へむかった。

沼へ行くには、森の中を抜けていかなければならない。

子供の足だと半日はかかる距離をひたすら歩かなくてはならないんだ。

でも、俺たちはバケツを持って、意気揚々とでかけた。

帰りには、このバケツいっぱいに、ザリガニをつかまえてくるつもりだった。

ただ、天気は少し心配だった。

雨が降るかもしれないというのは、家を出る時から聞いていたので、俺たちは二人とも、傘を持ってきていた。

そして、歩き出した。

どこまでも続く一本道をひたすら歩く。

4、5メートルはありそうな背の高い木がずらりと並んだ林道はうす暗かった。

いまにして思えば、あのへんは痴漢なんかがでてもおかしくない場所だった。

だからか、子供だけで遊びに行くな、ってよく言われてたっけ。

ただ、小3の子供としては、わざわざあそこまでザリガニをとりにいった、ということ自体がある種のステータスのように感じていた。

俺たちは真剣に沼を目指した。

当然だけれども、誰ともすれ違わなかった。

何時間かすぎて、やはり雨が降りだした。

傘をさしながら、バケツを持って歩くのは面倒だったが、俺たちは我慢した。

 

「どうしようもなく雨がひどくなったら帰ろう」

 

「うん」

 

そうは言ったが、俺たちは2人とも帰る気はなかった。

暗い林の中、激しい雨のせいもあって、視界はしだいに悪くなっていった。

気づけば、俺たちは嵐の中を歩いているような感じになっていた。

履いてきたゴム草履はもうぐちゃぐちゃだ。

 

「おい!!」

 

先にそいつを見つけたのは俺だった気がする。

 

俺たちのずっと先、同じ道の先の方、離れたところにそいつはいた。

薄暗い林道を雨にうたれながら、そいつは1人で歩いていたんだ。

俺は目を凝らしてみた。

そいつは小柄だった。

子供かな、とも思ったが、後姿をみても、歩き方はなんだか子供っぽくなかった。

カッパを着ているようにみえた。

いつからそこにいたのかわからない。

ただ、そいつの歩くスピードはすごく遅かった。

俺たちがそいつに気づいてから、俺たちとそいつの距離はどんどん縮まりだした。

俺たちは2人とも、そいつを見て見ないふりをしながら、足を進めた。

背は俺たちと同じくらいだ。

体は小さい。

でも、そいつの恰好がへんだった。

確認できる距離まできてわかったのだが、そいつは普通の服を着ていなかった。

カッパでもない。とにかく、布きれをめちゃくちゃに、体に纏っている感じだった。

それが雨に濡れて湿って、黒ずんでいた。

大人になったいまの俺が考えるに、あれは、それこそ、時代劇にでてくる昔の農民のような恰好だった。時代劇の衣装みたいにきれいじゃなくて、もっと汚れてた。

全体的になんか汚らしくて、古びいてる感じだったよ。

 

このままだともうすぐ、あいつに追いつく。

 

俺たちはそれに気づいた。

俺も友達も、足が遅くなった。

 

あいつに追いつきたくなかった。

 

ヘンなボロきれを山ほどまとったずぶ濡れの怪しいやつが怖くなっていた。

 

足はすごく遅い。

 

昔の草鞋みたいなのを履いてた。

 

髪は長かった。

 

それもぼうぼうで伸ばしっぱなしだ。

 

俺たちは、あいつが普通じゃないのに、気づいてたんだ。

 

俺らが慌てはじめた頃、あいつはもう目の前にいた。

 

ボロきれの背中が、手をのばせばさわれるところにあった。

 

俺と友達は、黙って手をつないだ。

2人で同時にあいつの横を抜けるつもりだった。

相談しなくても気持ちは同じだった。

あいつは、信じられないくらいゆっくり進んでいた。

 

俺たちは足を速めた。

 

いっきに追い抜くつもりだった。

 

そして、俺たちはあいつに並んだ。

俺か友達か、どちらが先だったかわからない。

俺たちは、ちょうどあいつと横並びになった瞬間、横を向いて、あいつを眺めた。

あいつもまた、俺たちの方をむいた。

顔と顔を合わせたかっこうになった。

 

「うわあああああああああああああああああ!!!!!」

 

俺はこれまでの人生の中で、一番、叫んだのがあの時だ。

 

間違いない。

 

友達も叫んだ。

 

俺たちの横に並んだそいつには、顔がなかったんだ。

 

「顔が、ない?」

 

誠は、聞き返した。

 

意味がよく分からなかった。

顔がないとは、つまりは、

 

「のっぺらぼうだよ。

目も鼻も口もなくて、皮膚だけあるんだ」

 

「そんなのって?」

 

「俺は、本当にあったんだ。

あれはいた。

俺たちはしばらくあいつを見て、立ち止まっていたけど、そのうちに、どっちが先か忘れたが、傘もバケツもそこに捨てて、来た道を全力で駆け出した。

俺も友達も、もう逃げることしか頭になかった。

毛穴しかない、皮膚だけの顔なんて、あんなの人間じゃない。

俺たちは全力で走って、家へ帰った。

俺たちの家があった小さな町へ戻れた頃には、雨は止んで夕方になってた。

俺たちは、あれと会ったのを親たちに話したが、誰も怒らなかった。

そういうのもいるだろう、って感じだった」

 

「はあ」

 

一気に語り終えたTに、誠は感心するしかなかった。

 

「俺は、あれが妖怪ってやつだと思う。

足が遅いのは、目がないんだから当然だ。

恰好が古いのも、それこそ江戸時代よりも昔から、ずっとあそこに住んでるのかもしれない。

俺はいまでも、友達とあの日の話をする。

俺たちは、あの日、会ったよなって」

 

結局、その夜のバイトはTの話を聞いているだけで終わってしまった感じだった。

その後、Tは家庭の都合とかで会社を退職してしまい、誠と一緒に夜勤に入ることはなかった。

怪異とのふれ合いは、Tのあのいたずらっぽい人格形成に多大な影響をおよぼしたと思う。

誠は、いまでも、いつか自分が妖怪にあえる日を待っている。

 

 END

☆☆☆☆☆
23話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

妖怪に会った話は、Tさんのモデルさんから聞いた時、すごくびっくりしました。

私はこの話は好きです。

ああいうものがどこか日本の山奥にずっといても不思議で、ある気がしませんか?

霊能者の回は今回で終わりです。

Tさんとの思い出を文章に残せてよかったです。 

今回はここで失礼します。

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