脳出血した中高年のための怪談100物語 更新中です。 怪談はあなたと私をつなぐ、1話2000字のコミュニケーションツール 広告

100-26 その家-3

100-26 その家-3

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 「父を殺したのは、義母と父のかかりつけの医者だったN。それに警察者や役所の連中も、みんな、口裏をあわせて毒を飲ませて父を弱らせ、殺害したんです。

俺がどれだけ話しても誰も信じてくれません。

あいつらみんな父から金をもらっていた連中なんです。

裏金です。

町長だった父は、金目当てで自分に群がってくるそんな連中に嫌気がさして、それを告発して町政に巣食うダニを一掃しようとしてたんです。

やつら、それに気付いて父に毒を飲ませて、寝たきりにして。

俺は義母とNができてたことも知っています。

父は殺されたんです」

 

初対面の大家にそう言われても、さすがに、誠も、そうですか、と答えるわけにはいかない。

もしゃもしゃの長髪で、時代遅れのロックバンドのTシャツを着た初老の男。大家のその外見は、不審としかいいようがない。

 

「あの、大家さん。僕はですね」

 

「俺はHです」

 

「すみません。

Hさん、僕はですね。あなたが経営しておられるアパートについてお話を聞きたかったんですよ。

お父さんのお話は、それこそ、いま、はじめて聞いたので、僕には、なにがなにやら、さっぱりです」

 

両手の平を宙に上げ、お手上げのポーズを取った誠を、Tは睨みつけた。

 

「あいつらは、あのアパートに妙な噂を立てて、俺をあそこから追い出そうとしてるんですよ。

先生、すべては陰謀なんです。

わかるでしょう?」

 

「はぁ。陰謀ですか」

 

申しわけないが、Hの言葉に説得力は感じられなかった。

悪いが、彼は、親の遺産のアパート経営で暮らしている、頭のおかしな初老の男に、見えないこともない。

 

「父は、俺に、自分は毒を飲まされてるって、言ってましたよ」

 

「失礼ですが、大家さんは、あのアパートで暮らされてるんですか?」

 

「はい。父が死んで、義母たちが出て行ったんで、一人暮らしですよ。

この間まで、ちょっと入院してたんですけどね。

退院してきていまは、男やもめです」

 

「ご結婚は?」

 

「してません」

 

「ご職業は?」

 

「いまは、してないですね」

 

話せば話すほどにHが信用してはいけない人物の気がしてきた。

 

「先生、俺は先生を信じてますよ。父の死の真相を解き明かしてください。

なにかあれば、いつでも連絡してください。

よろしくお願いします」

 

Hは、名前と電話番号だけ印刷した名刺を誠に渡すと、頭を下げ、出ていってしまった。

後を追おうか、どうしようか、誠が迷っていると、5分もしないうちに、今度は昼間会った不動産屋が、誠の事務所を訪ねてきた。

不動産屋は、誠に、いまさっき大家と会ったのを確認してきた。

 

「ええ。ついさっき、ここでうかがいましたよ。

そのう、独特な方ですね」

 

「鈴木さん、あんたは大丈夫でしたか?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「暴力を振るわれたりしてませんか?」

 

「は? 

してませんよ。暴力って、なんのことです?」

 

誠に聞き返されて、不動産屋は表情を曇らせて、

 

「あのね、あなたが自分から会いたいって言うから、言わなかったんですけど、あのHさんという大家さんは、いろいろ問題のある危険人物なんですよ」

 

「あの、不動産屋さん。さっき彼から、最近まで入院していたって、聞きましたけど、それって、あれ、ですか。心の病ですか?」

 

「はい」

 

誠に聞かれて、不動産屋は声を落として語り始めた。

 

「病院だけじゃありません。

刑務所にも行ってたんですよ。

彼は」

 

「なにをしたんですか?」

 

「放火です」

 

「放火?」

 

「ええ。灯油をひたした紙を丸めて、それに火をつけて、すれ違いざまに人の顔に投げつけるんですよ。

他にも駐車している車に火をつけたりですね。

本人は覚えてない、と言ってるんですが、犯行を目撃していた証人もいて、あの人がやったのは、間違いないんです」

 

「そして、逮捕された、と」

 

「でも、心の病気のせいってことで、罪は軽かったんです」

 

精神病のせいなのか、どうやらHは自覚なき犯罪者のようだ。

誠は、これまでの経緯を考えて、

 

「Hさんは、どなたか彼の面倒をみてくれるご家族か、後見人のような人と暮らした方がいいんじゃないですか?

今日、僕とした話も怪しげなものでしたし、彼はいま、社会にでて一人で暮らすのは無理なのではありませんか?」

 

「そうなんですが、その親戚も家族もいないんです。

あのアパートの管理は、あの人のお父さんが生きてた頃から、お父さんに任されてきたので、いまも引き続きウチがやってるんですけどね。

ふぅ・・・」

 

不動産屋がため息をつくのも当然だと思った。

 

「昼間、お話したように、僕は、あのアパートで怪異が起きているは事実だと思っています。

不動産屋さんは、大家さんはそれとは関係がない、とお考えですか?」

 

「いや、そうとも言い切れませんね」

 

意外な返事だった。

 

「Hさんと怪異の接点は、なにかあるんですか?」

 

「彼がどんな暮らしをしてるのか鈴木さんは、聞いてないんですか?」

 

「知りませんけど、働いていないそうですし、ふらふらしてるんじゃないんですか?」

 

「とんでもない」

 

不動産屋は、表情豊かに、誠に語りだした。

 

「Hさんはねぇ、毎日、朝から晩まで商売女を呼んできて遊んでるよ。

それもいっぺんに2人も3人も呼ぶんだ。

売春婦をあんなに呼んで、よくあきないもんだよ」

 

「売春婦って、デリヘル嬢ですか」

 

「そうそう。ああいう類いの女が毎日、あの家にはきてるんだ。

父親から何億だかの金をもらったらしいが、あれじゃ、女で使いつぶすぞ」

 

「朝から晩までですか?」

 

「ああ。俺の金だから、俺の自由だって言ってるよ。

あんな暮らしをして、放火をして精神病院に入院して、そりゃ、祟りがあってもおかしくない」

 

「不動産さん、僕は、Hさんから、お父さんが殺害されたって、聞いたんですけど?」

 

「鈴木さん。

あんたは知らんだろうが、Hさんのお父さんもね、悪い噂のたくさんある人だったよ。

汚職やらなにやらで相当儲けていたらしい。

私に言わせれば、あそこの家は、ずっとやりたい放題の一族だ。

あの町長さんが死んだ時にも、バチが当たったって言う人もいた」

 

不動産屋の話をここまで聞いて、誠の中には薄ら見えてきたものがあった。

 

「あのアパートは、あの家は、欲望の歯止めがきかなくなる家、なのですね。

普通なら寝返り一つですむところを体は反転するし、食べたいものは体を壊すまで食べ続ける。権力も、お金も、性欲も、止まらない。妨害するものは、暴力で排除してでも

突き進む」

 

そんなところにいたら、身を滅ぼしてしまう。

Hさんのお父さんのように。

お父さんが、殺害されたのだとしたら、それは、お父さんが邪魔だったHさん自身の手によるものだったのかも。

 

「不動産屋さん。

あそこは、人の住む場所じゃないのかもしれませんね。

もともと庄屋さんは、どのようにしてあの土地を手に入れたのでしょう」

 

「それは、わからん。

けど、あそこには住まん方がいい。

私もそう思うよ」

 

その日の夜半、誠は1人でアパートを訪れた。

中には入らず、建て増しを重ねたグロテスクな建物の回りを歩いてまわった。

中からは、Hが呼んだ女たちがあげているのかも知れない嬌声がきこえてくる気がした。

この欲望の塊は、あまりにも禍々しすぎる。

誠は、この建物と距離を置き、縁を切るのを決めた。

自分の手には負えないものだ。

下手に関わると身を滅ぼす。

 

それから数か月後、Hは銀行で逮捕された。

白昼、刃物を手に正面から銀行へ入り、金を要求したらしい。

Hは逮捕され、近いうちに収監される予定だと、誠は、不動産屋からの電話で知った。

 

END

 

 ☆☆☆☆☆

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

26話めは以上です。

このエピソードの話にも、モデルになった人物がいます。

作中の誠のように、僕はなにもできない傍観者でした。 

事件の渦中にいた時、巨大な見えない力に翻弄されている感じでした。

こういった怪異も怖いです。

 

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