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100-28 ひとりごと

100-28 ひとりごと

 

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 夢か現かわからないような状態で聞いた言葉は、案外よく覚えているものだ。

僕には、そんな記憶の断片がいくつかある。

姉妹が話している。

僕は前述したような状態だ。

2人は、僕が寝ていると思って話しているのか、それともこちらに意識があるのは知ったうえで、話を聞かせるつもりで話しているのか、それは僕は知らない。

 

「だからね」

 

「本当にそうでしょう」

 

「本当にそう」

 

「いやんなるよねー」

 

「まったくやになる」

 

「そうだよね」

 

「ほんとそうだよ」

 

言葉を聞いていると、この姉妹はまるでネコみたいだ。

人間の姿をしたネコが二匹でじゃれあっているような気さえする。

 

恐ろしい言葉を聞く時もある。

 

「くくくくくく、くはぁっ」

 

含み笑いと荒い息。

 

「気づいてるぞ。気づいてますよ。気づいてるったら」

 

僕に言いきかせているのか、声色を変えて、何度もおなじことを言う。

聞いていると、この人、おかしんじゃないかと思えてくる。

 

知り合いが亡くなった。

僕よりもずっと年長の人だ。

でも、ずっと親身になって付き合ってくれた。

葬式の後、ご自宅へ呼ばれた。

ご遺族から話したいことがあると言う。

ご自宅は、親戚縁者でいっぱいだった。

僕の居場所はなかったので帰ろうとしたが、呼び止められ、そこらにいてくれと言われた。

僕は、空いている和室の隅で横にならせてもらった。

この家にくるといつもこうしていたので、抵抗はない。

いつものように枕と毛布を借りて、横になった。

御家族の誰も僕の態度に文句は言ってこなかった。

主人の変わり者の年少の友人。僕はきっとそう思われているし、まったくその通りの人物だ。

 

「早すぎたね。早すぎた。

なにも悪いことをしていない人なのに、なんで、死ななきゃならないのか、まったく納得できない。

優しい優しい人だったよ。

みんなに優しくしていた。

あの人を悪く言う人は誰もいない。

そういう人だった」

 

横になって目を閉じている僕の耳に、その声は届いてきた。

年配の女性の声だ。

誰かと話しているらしい。

僕はそのまま、聞くともなしに聞くことにした。

亡くなったあの人の話なら、こちらも聞きたい気分だった。

 

「貸したお金もずいぶん返してもらってないね。

このまま、返さない奴もいるだろう。

でも、あの人は家族の誰にも話してないから誰も気づかない。

本当に秘密は、全部待って墓場へ行っちまった。

あの人がいなくなって、さみしいよ。

さみしいよ」

 

話し手が泣いている気がした。

僕も故人が周囲の人に深く愛されていたるのは知っているつもりだ。

亡くなってしまってさみしく思う。

しばらくの間、話し手は泣いていたようだ。

今日この家で泣くのは故人の供養になると思う。

 

「誠さん、誠さん」

 

夫人いやいまとなっては未亡人か、に声をかけられた。

失礼だが寝たフリを続けておく。

個人の思い出にひたっていたい気分だ。

未亡人は僕をおいて、どこかへ行ってしまった。

僕の意識は睡眠と覚醒のはざまを漂っている。

 

「あの人が亡くなったら、この家にも来にくくなるね。

そうだね。

奥さんも悪い人ではないんだけれども、旦那さんとは違うね。

ああ。違うね」

 

話し手の言葉は、誰か話し相手がいるようでもあり、ひとりごとのようにも聞こえる。

たしかにこれからは、いままで通り気兼ねなくこの家にくるわけにも行かなくなると思う。

まったくまったくだ。

この地上から僕の居場所がまた一つ減ってしまった。

 

「飯の心配もしなくちゃぁねぇ。

旦那さんは、気前よくいつだって御馳走してくれたけれどもねぇ」

 

どうやら、僕と同じような客がこの家には何人かいたらしい。

僕も含めた、故人の客たちは、この家からは、そろそろ退散しなくてはならないらしい。

 

「旦那さんは優しかったよ。

寝ている時も、こっちが気持ちよくなるように、上手にしてくれた」

 

おい。おい。僕はそこまではしてもらってないが。

こんな話を人に聞かれるところで、話していて大丈夫なのか?

未亡人に聞かれたら、ただではすまないだろう。

 

「旦那さんには、いくらでも甘えたくなったね。

2人で遊んでると時間が経つのがあっというまで、旦那さんを寝かすのがイヤで邪魔してやったこともあるわ。

あの人だって、あたしの遊ぶのはイヤじゃなかったよ。

奥さんといるよりもずっと楽しそうだった。

あたしのこともかわいい、かわいいって、何度も言ってくれた。

ああ。

あの人がもういないなんて、信じられない。

生きてると、どうしてこんな悲しいめにも会わないといけないんだろう」

 

話してはまた泣きはじめた。

今度はおいおいと声をあげ泣いている。

僕は、先程の話の内容もそうだし、さすがに心配になってきて、体を起こした。

声の主は、僕がいる部屋の隣りの和室にいるはずだ。

ふすまを開けて、隣の間をそっと覗いた。

そこには、誰もいなかった。

いや、人はいないがネコはいた。

年老いた茶色いネコだった。

この家でこれまで何度か見たネコだ。

ちょんと畳に座っていたネコは、僕をみると、ニャンと一鳴きして、どこかへ行ってしまった。

 

 

 END

 

 

☆☆☆☆☆
28話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
ネコと話せる人というのが、僕の人生にはたまに登場します。

でも、その人からネコとの話し方を習っても、僕は話せるようになりません。

ネコは話したい人としか話してくれないのでしょうか?

 

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