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100-39 カルトとカリスマ-4

100-39 カルトとカリスマ-4

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Iからの誘いに誠はすぐに返事はしなかった。

 

できなかった。

 

宗教団体でも新団体の旗揚げや分裂や合併などは、よくある。

幼い頃から会の信徒だった誠は、同じ支部にいた信徒たちが会を離れ、他の団体の信者になったり、時には宗教自体を辞めてしまうのを何度もみてきた。

信仰と共に生きるのが、その人自身の幸せと一致しなくなったら、会を離れるのは仕方がないと誠は思う。

誠自身も、会を離れた方が自分の人生にとってプラスになる、と明らかに判断できる時がきたら、離れるつもりだ。

しかし、Iからの勧誘で退会するのは、また話が違う。

Iは自分を慕うものたちを引き連れて、新しい宗教団体をはじめるつもりらしかった。

 

なぜ、自分をそれに誘うのか?

 

誠にはその理由もわからなかった。

 

支部長のIが会を離れて独立するとの噂が流れて、支部にいる信徒たちは、みな、動揺しているようだった。

「鈴木さんは、どうするんですか?」

他の信徒たち、何人かに聞かれた。

すでに成人して実家を離れて一人暮らしをしていた誠は、この件については誰にも相談できず、一人で悩んでいた。

Iから呼び出された。

今後について二人で話がしたいという。

気はすすまないが、Iと会って話すのは、義務のような気がして、誠はIに会いにいいった。

約束の店にIは、一人できた。

ファミレスの席で、Iと誠は、テーブルを挟んで、向い合せに座った。

「鈴木くんは、これから、どうするつもりなの?」

先にたずねてきたのは、Iだった。

「僕は、会への信仰を通じて得た力なのかもしれませんけれども、少しばかりの、いわゆる霊能力があるようなので、その力を人の役にたてながら生きていきたいと思っています」

「占い師にでもなるのか?」

「いえ、一般にいうところの拝み屋です。

霊視したり、お祓いしたり、いろんな相談にのったりする感じです」

「まぁ、そういうのは、きみはむいてるかもしれないな。ただ」

Iは言葉を切って、誠の目をまっすぐに見つめた。

「適当な会社で働きながら、拝み屋やって、人生、それでいいのか?」

「僕はそれでいいと思ってます。自分になりに」

Iは誠に最後まで言わせなかった。

「小さいなぁ」

Iは吐き捨てるように言った。

「俺は、昔から鈴木くんには素質があると思ってるんだ。

俺は、才能や素質のあるものが、それを生かして活躍するのは義務のようなもんだと思っている。

そうだろ?

いま会は、開祖が御病気だ。

公にはもちろんなっていないが、高齢だし、そう長くはないらしい。

開祖が亡くなれば、当然、会は分裂するだろう。

俺の義父の会社と同じだ。

俺は青年隊の頃に知り合った全国の仲間たちと手を組んで、新たな会をはじめようと思うんだ。

すでに後援者はいる。

鈴木くんが俺と一緒にきてくれるなら、そこの幹部の1人として迎えようと思っている。

どうだ、金の心配をせずに霊能力の修行に打ち込めるそ。

その力で、全国の、いや、世界中の人を助けたいんだろ?」

Iの声は大きく、言葉もはっきりしていた。

しかし、それは違う、と誠は思った。

I先輩からすればたしかに小さいかもしれない、でも、自分は、自分の力で小さく暮らしながら、周囲の人にささやかな幸せがあげられれば、それで十分なんだ。

それが僕という人間の器だ。

それ以上は望んでいないし、望むこともないだろう。

「I先輩。

僕は小さい人間です。

僕には、I先輩についていくのは無理です」

座ったまま、誠はIに頭をさげた。

Iは誠に生涯をともにするなにかを感じたのかもしれないが、誠は感じなかった。

Iがなにも言わないので、誠は顔をさげたまま、じっとしていた。

 

「鈴木くん。

きみはいま、大きなチャンスを逃そうとしているぞ。

それでもいいのか?」

 

「結構です」

 

はっきりと答えられたのが、誠自身、意外だった。

 

また、数秒間の沈黙があった。

 

誠は目を閉じて考えていた。

 

今後の自分の人生、五年後、十年後、Iと歩んだ人生と、そうでない人生、どちらが自分は満足しているか、誠の脳裏に浮かんだ十年後の誠は、くたびれたコートをはおった貧相な中年だった。

 

その彼に誠は尋ねた。

 

「Iさんと別れて幸せですか?」

 

誠の問いに、中年の誠は、にやりと笑って頷いた。

 

それで、もう、悩むことはなかった。

 

「金はここへ置いていく。じゃな」

今夜の食事代にしては多すぎる札を置いて、Iは席を離れた。

 

誠は、今後、Iとこうして会うことはないと思った。

肩が急に軽くなった気がした。

これまでの青年期の間、Iから常にプレッシャーを感じていたのに、誠はいまさらながらに気がついた。

Iとの付き合い方を決めたこともあって、誠はしばらく道場へ行かなかった。

そうこうするうちに、東京の総本部にいる会の開祖が亡くなった。

高齢だった。

国会議員をしていたこともある開祖の死は、ニュースなどでは大々的に報道された。

誠は、東京の総本部に電話して、幼い頃から所属していた会の退会手続きをした。

家族にも会の知り合いの誰にも言わなかった。

会で学んだこと、読んだ経文は、自分の宝物だと思った。

これからは、会を離れて自分の力でやっていこう。

少しさみしい気もしたが、誰にでもそういう日はくる、と思った。

 

鈴木誠は、無所属の拝み屋でいいじゃないか。

 

END

☆☆☆☆☆
39話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

すいません。今回は、怪異のない回になってしましました。

これもまた一つのリアルな物語です。

読んでいただいてありがとうございます。

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