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100-40 カルトとカリスマー5

100-40 カルトとカリスマー5

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誠が退会してすぐ、会は分裂した。

先日まで誠が所属していた地元の支部は、I支部長を中心として信徒たちが一致団結して、これまでの会の指導部とは袂をわかって、国内のいくつかの元支部と手を組んで、新会派を結成した。

すでに誠は興味がなかった。

誠にとってのIという人は終わってしまっていた。

所属する信徒一人一人のささやかな幸せに貢献できない宗教団体では、存在しても意味はない。

Iが新会派の炎の行で大怪我をして入院したという、連絡がきた。

I自身からではなく、以前の会で親しくしていた古参の信徒が誠に電話してくれたのである。

「行の最中に高い所から、腰の骨を折って重傷らしいよ。

Iさん最近、女遊びが激しくて修行を怠けていたから、バチがあたったとか言われてるよ。

大きな声ではいえないが、一生後遺症が残るらしい。

歩くのが不自由な体になるかもしれない」

「そうなんですね」

話は聞くには聞いたが、誠は見舞いに行く気にも、電話する気にもなれなかった。

病院に入院しているというIから手紙がきた。

「鈴木くん。お変わりないですか?

最近、きみの悪い噂をよく聞きます。

きみは以前の支部には長年在籍していた古参の信徒でしたが、会に対して特別なにをするでもなく、マイペースに活動していましたね。

そうして自分自身をなによりも大事にして生きている人間が、他人に対してとやかく言うべきではないと思います。

いま、自分たちは新たな理想に向かってがんばっています。

きみに悪く言われる理由はまったくありません。

自分たちの信徒さんたちはもちろん、古くからの会のみなさんにも声をかけるのはやめてください。

もし、自分に言いたいことがあるなら、いつでも、一人で乗り込んできてください。

鈴木くんの希望は一人でやりたいように拝み屋さんをすることでしたね。

がんばってそれをして、日本一、世界一の拝み屋になってください。

私からきみに伝えたいのは、これだけです。

強くなれ。

全日本〇〇会中部日本本部長 I」

Iさんは、病院のベットで愚痴を言う相手もいなくて、自分のところに手紙を送ってきたんだと誠は思った。

返事を返す気もなかった。

新団体で要職につけたとはいえ、重体になったり、こんな手紙を書いたりで、誠はIからかげりと衰えを感じた。

 

僕がしてあげられることはなにもないけれども、この人は、いまも自分の信仰を信じているんだろうか?

誠は、会とは関係ない独立した一、拝み屋として人々の相談に乗ったり、時にはTVに出たりして活動を続けた。

こうすることで、自分がこの能力を持っている意味が見えてくる気がした。

誠がIと再会したのは、互いに四十の声を聞いた頃だった。

「鈴木くん」

大型スーパーでの買い物中に、急に声をかけられた。

Iはじんべえのような和服を着、片足を不自由そうい引きずっていた。

かっての精悍さはなく、太っていた。

「I先輩」

あれから、誠の耳に入ってきたのは、ここらへんの地区のIの組織は一時期は数千人を超える信徒を獲得したが、Iからの厳しい寄付金の取り立てや女性信徒たちとのスキャンダルなどが相次いで、信徒は激減、結局、現在では全部で100人にも満たない信徒で、細々と活動しているらい、との話だった。

「TVにでてるの見たよ。

 拝み屋は儲かってるかい?」

「いいえ」

「そりゃ、大変だろ」

「僕は、幸せですよ。毎日、楽しくやってます」

Iは馬鹿にしたように、薄く笑った。

品のない笑いだった。

最近うまくいっていないのが、感じられる笑みだった。

「先輩、修行、してますか?」

「もうオレは歳だから、ダメだな。

 足も悪いしな。

 歳には勝てんよ」

もうこの人と争うこともないな。

誠はそう感じた。

すこし、さみしい気もした。

Iからはなんのプレッシャーも感じなかった。

Iは静かに誠に背をむけ、去って行った。

 

誠は、Iの太って、でも、小さくなった背中に、念をぶつけた。

若い頃のIなら、確実に振り向いたはずだ。

誠の集中した念は、Iの背中に刃のように突き刺さった。

 

「先輩。

先輩、感じませんか?」

 

Iの足が止まった。

 

誠は念を送り続けた。

 

「I先輩。

こっちです」

 

誠は、Iが振り向くのを待った。

Iの背中がゆっくりとこちらへ、

「うわっ」

と、Iはバランスを崩して、スーパーのフロアに倒れた。

周囲にいた店員がIに駆け寄った。

誠は、Iがなにか言ってくるのでは、と待っていたが、Iは抱き起こされると、そのまま、こちらを見もせずに行ってしまった。

誠はIの背中に黙って、頭を下げた。

知力でも魅力でもすぎた力は、結局、その人を滅ぼしてしまうと誠は思う。

欲望や誘惑に負けずに、己の分を知るのが、人として誰もがしなければならない修行なのではないだろうか。

 

END

☆☆☆☆☆
40話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

Iさんのエピソードは今回で完結です。

ある意味、私の青春のエピソードでした。

お付き合いいただけて幸せです。

みなさんも、青春期に出会った忘れられない人物っていませんか?

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