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100-78 死を忘れた男

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100-78 死を忘れた男

霊能者、鈴木誠は比較的よく入院する。

体調を崩す原因は、いわゆる霊障もあるのだろうが、もっと単純に仕事がらみで裂傷や骨折などの外傷を負うこともままある。

30を過ぎたいまも両手両足、両目耳があるのは幸運なのかもしれないと我ながら思っている。

ある日、自覚症状のないまま、いきなり大量の下血をして、誠は自分で救急車に電話して、近所の救急病院に入院することになった。

検査の結果は胃潰瘍で、様子見で数日入院した。

ここの病院には過去数度、入院しているので、医師や看護師にも顔見知りが大勢いる。

霊能者をどんな職業だと考えているのかはわからないが、「鈴木さんは危ない仕事をしているから、入院するのもしょうがないですね」みたいな言われ方をする。

「ここはいろんな人の生き死にを見る場所ですから、奇妙な経験をされることもあるんじゃありませんか?」

「まぁいろいろありますけどね」

誠がたずねると、今回の担当医師は、話にのってきてくれた。

「いろいろですか?

僕が言うのもなんですけど、幽霊がでるとか、そういった話ですか?」

「まぁそこらへんは私はくわしく知りませんが、歴史ある大きな病院なのでそうした噂もあるかもしれませんね。

私自身が対面した一番、不思議な出来事は幽霊ではなくて、それと反対の人ですよ」

「反対と言うと」

「個人情報なので、ちょっとアレなんですが、そういう人もいますよという例としてですね。

実は、死なない人もいるんです」

「死なない?」

医師の言葉に誠は首を傾げた。

「普通なら亡くなりそうな症状から回復したってことですか?」

「ええ。そうですね。それが別々の理由で何回も何回も続く人なんて、私もその患者さん以外に会ったことがありません」

「ほう。それは気になりますね。

僕も仕事がら不思議なめにはよく会うのですが、死なない人とはまだ会ったことがない」

誠の興味むきだしの様子に、医師は話してくれる気になったらしく、誠のベットの脇の椅子に腰をおろした。

「鈴木さんは、ガンが消えるって知ってますか?」

「ああ。それなら、聞いたことはあります。

末期ガンが一夜にして消滅してしまう。

その根拠が医学的には説明がつかないけれども、そういう患者は確かに存在してるんですよね」

「そうです。

たまに週刊誌などで報じられますよね。

現実にそうしたケースはあります。

でも、なぜ、それが起きるのかは医師にもわかりません。

彼は、まず、末期ガンのステージ4の患者でした。

しかし、ガンは消滅したのです。

その後も、私の記憶にあるだけでも、腸捻転、脳出血、心肺停止と立て続けに、何度も危篤の状態に陥りましたが、そのたびに命をとりとめ、しかもどのケースも奇跡的に後遺症はほぼなく、生還しているのです。

どうして、彼に関してだけこうした土壇場からの逆転現象が続くのか、正直、説明のしようがありません。

鈴木さん、これは霊的な守護ととかってものなんでしょうかね?」

「霊的な守護ですか。それもありえなくもないと思いますね。

先生は、キリスト教の牧師さんで治癒を得意とする方がいるのをご存じですか?」

医師の話を聞くうちに、誠の頭に浮かんだのは、ヒーラー(治療師)として有名な牧師だった。

キリスト教のプロテスタントの教会に所属するその牧師は、神への祈りといわゆる手かざし行為だけで、人々の病を治し、中には損壊した歯や四肢がまた生えてきたケースもあるそうだ。

キリストが盲者の視力を回復させた逸話ではないが、信仰や霊的な力は、時に医学の常識を超えるのではないかと誠は思う。

「看護師たちも知っているかと思いますが、実はその患者さん、いまも入院しているんですよ。

悪性の腫瘍だったんですが、昨日手術を終えて、今回も経過は順調です。

霊能者として鈴木さんは彼になにか感じるかもしれませんね。

失礼かもしれませんが彼はまったく普通ではないですよ」

真面目で誠実そうな医師に思わぬ告白をさせてしまって、誠は申し訳なさを感じながら、

「先生。もしよければ、僕をその人に会わせてもらえませんか?

会って話してわかることがあるかもしれません」

「それは。まぁ、彼はいまは健康な状態で、また後遺症もありませんから、院内で鈴木さんと会うことはできますが」

死なない男と霊能者を合わせていいのかどうか、医師はすこし迷っていた様子だったが、

「鈴木さん、おかしなことはしませんよね?」

「僕は、ただお話するだけですよ」

「ですよね。だったら、別に患者さん同士が談話室で話すだけですから、かまいませんよ。

彼の方もOKだと思います。

気さくなお人柄なんですよ。

では、後でよろしくお願いしますね」

 

夕刻になって病室にきた看護師から、誠は一緒に談話室へ行くように指示された。

2、30畳はありそうなスペーズには、大型テレビとテーブルと椅子はいくつか置かれている。

誠は看護師の案内で、窓際のイスに座った男性の前の席へ。

入院着を着た男性の頭にはまったく頭髪はなかったが、肌色はよく、背筋もぴんとしていて、引き締まった体、一見すると健康そうな中高年に見えた。

「はじめまして」

「どうも。I先生から聞いたんですが、鈴木さんは霊能者さんなんですか?」

「はい。霊能者として看板をだして営業しています」

「それで、自分みたいな人間に興味があるんですか?」

「そうですね。あなたの話を聞いて、僕はそれが現実なら、その人にはいったいどんな力が働いてるんだろう、と思いました。

もしかしたら、ものすごく運がいいのかもしれない。

でも、幸運ってそんなに何度も何度も続くものじゃないですよね。

いったい、あなたにはなにが起きてるんでしょうか」

誠が顎に手をあてると、男はにやりと微笑みを浮かべた。

「実のところ、自分自身よくわかってないんですが、持論はあるんですよ。

聞いてくれますか?」

「もちろんです。教えてください」

男は入院着の袖をまくり、誠に傷跡だらけの二の腕をみせた。

手首、さらに腕の太いところにも、大きな傷跡があった。

「これ、事故でやったんです。

電車のホームから落ちて、ひかれました。

普通なら、手首もしくは前腕切断か、出血多量で死亡の傷だそうです。

ですが」

男は誠の前で二の腕をぶんぶんと振り回し、手の指もにぎったり、開いたりしてみせた。

「後遺症もありません。

担当した医師の腕がいいのもありますが、この手術もいろいろ奇跡的な幸運があったみたいですね。

正直なところ、普通にしていて、ホームにいる満員の乗客に押される格好で線路に落ちる瞬間、電車のライトの光を感じながら、ああ、またか、なんて思ったんですよ。

若い頃にガンになってそれが発見されて、すぐに進行して、もう後がない末期状態になった時に、自分も普通に死を覚悟したんです。

ガンが全身に転移してたんですよ。

助かるわけないって、誰でも思います。

別に普段は、神も仏もとくに信じてるわけじゃありませんが、あの時は真剣に、神様、仏様、いままでありがとうございました。これが自分の運命なら受け入れます。と病院のベットで心から思いました。

そうしたら、ガンが消えて、生き残ってしまった。

医師よりも周囲よりも、一番驚いたのは自分自身ですよ。

まったくわけがわからない。

それからですよ、白血病にかかったり、心臓が停止したり、脳出血もありましたし、何度も事故にも遭いました。

どうやら、自分は死ぬことに対して免疫ができているんじゃないか、と最近は考えているんです。

死ぬということ自体、多くの人間がかかる疫病のようなものだと考えると、自分はもう死そのものに免疫ができてしまっている気がするんです」

男は平然とそう語ると、席を立ち、窓ガラスに手をあてた。

「例えば、ビルの9階にあるこの場所から飛び降りても、私はきっと死なないと思います。

奇跡的な出来事が積み重なって、さしたる後遺症もなく生き残るでしょう。

おそらく、いや間違いなくそうなる。

それは自分という存在が死に対して免疫があるからです」

男の言葉が冗談には聞こえなかったので、誠はなにも言わずにいた。

「では、証明してみせまよう」と言って、このビルから飛び降りかねない。男にはそんな普通でない気配があった。

「鈴木さんは、こんな男を幸運だと思いますか?」

「いいえ。幸運というのとは違う気がします。

免疫というのは一度それを経験してつくられるものですよね。

つまり、あなたの場合は、本来なら死んでいるはずの経験をしたので、免疫がついたとなるわけです。

普通は死という恐怖は一度経験するだけなのに、あなたはそれを複数回経験しておられる。

これが幸せとは、僕には思えません」

男は顔を上にむけ、喉にくっきり残ったアザを誠に見せた。

「この通り、自分で死のうとしたこともあるんですよ。

いろいろ考えたら、あまりにつらくなってね。

なのに、誰もいないところで1人でやったのに、意識を取り戻したら、五体満足で病院のベットにいました。

自分がこうして生き残り続けるのは、なにか果たさなければならない使命があるからだ、という人もいます。

鈴木さん、私に使命はあるんでしょうか?」

誠はなにもこたえられなかった。

男が言うように、死に免疫を持てるのならば、それは死を超えて生きよ、と何者かの意志が働いているのかもしれない。

死の免疫は人類としての進化なのだろうか。

しかし、信仰も信念もないこの男に死への免疫を与える意味はあるのだろうか?

 

数日後、誠は退院した。

それからすぐに地元の警察が誠の事務所を訪ねてきた。

あの男が今度は、飛び降り自殺をはかったらしい。

高層ビルから落ちた男は全身打撲を負いながらも、奇跡的に命をとりとめ、大きな外傷も後遺症もなかったそうだ。

警察は男から親しい友人として、なぜか誠を紹介されて、誠に事情を聞きにきたという。

誠は特に話せることもないのを警官に謝り、帰ってもらった。

 

END

 

☆☆☆☆☆
 
 78話めは以上です。
 
 この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。

 ヒーラーの牧師さんの話は、僕が知り合いのプロテスタントの牧師さんから聞いた話です。

 ガンが消えるというのはそれについて調べている作家さんから聞きました。

 事故でも病気でも、まるで死から拒否されているように生き残ってしまう人はいますよね。

 それが幸福なのかどうか、僕にはわかりません。

 

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