100-29 気功
誠のところにきた相談者は、中年の男性だった。
見たところは、普通に見えるのだが、脳出血で倒れてからまだ半年ほどしか経っていないという、彼からの相談は、今後の自分の健康法についてだった。
「先生。心霊治療って、本当に効くんですか?」
「心霊治療ですか?
ケースバイケースな気がしますが、まずは普通の病院で診察してもらっていた方がいいと思います」
誠は経験上、科学や既存の医学の常識を超えた治療法があるのを否定はしないが、それは万人が恩恵を受けられるものではないと思っている。
普通のやり方では、たどり着けない、幸運や偶然が重なった結果、奇跡の回復や完治が起きるのだ。
実際、ガンが消えてしまう患者は実在するが、それは担当医も原因がわからないし、本人もなぜ、そうなったのかわからなかったりする。
望んで得られるものではない。
「実は、私のずっと世話になっている恩師が、私に心霊治療をすすめてくるんです」
相談者の話は、こんな内容だった。
仕事中に、出張先で突然の脳出血に倒れた相談者は、50%の確率で絶命するところだったのを幸運にも一命をとりとめた。
しかも破裂した血管の場所も運が良くて、体の機能をほとんど損なわずにすんだ。
すると、彼の会社の恩師が見舞いにきて、彼の手を両手で握りしめた。
「この病気で死んだやつ、障害者になったやつをたくさんみてきた。
おまえは本当に運がいい。
俺は思うんだが、おまえは生かされたんだ。
おまえには、生きるための使命があるはずだ。
こうして生きの残った以上、そう考えるべきだ」
相談者自身は、生き残った幸運には感謝していたが、自分が生きる使命など、考えたことがなかった。
しかし、尊敬する恩師に言われると、そんなものかもしれない、と思えてくる。
そのうちに、今度は恩師が、おまえに先生を紹介してやる、と言ってきた。
その先生は気功を操り、手をかざすだけで多くのゲガ、病気を治療してきた人なのだそうだ。
「おまえの頭もみてもらえば、脳の回復にプラスになるはずだ」
そしてさらに、実は、これは現代科学ではオーバーテクノロジーだと言われているのだが、と前置きしてから、
「AWC(Arbitrary Waveform Generator=段階的波動電子発生装置)って知ってるか。知らないだろうが、これは日本人の博士が発明した治療法だ。波動治療とも呼ばれている。
わかりやすく説明すると、現代医学のアプローチではなく、科学の視点から、素粒子レベルで人間の体を治療していくんだ。
ガンでもなんでも、どんな病気にも効果がある。
これらがそれほど公になっていないのは、これを認めてしまうと、現代医学の治療法が過去のものになってしなう恐れさえあるからだ。
俺の親友は、ステージ4のガン患者だったが、その時点からAWCでの治療をはじめて、まだ生きている。
それどころか、ガンの進行が止まった。
俺が思うには、あと三年もこの治療を続ければ、ガンは治ると思う。
お前の脳も、現代医学では完治しないかもしれないが、気功やAWCなら、俺は、治ると思う」
ずっと信頼してきた恩師の言葉に、相談者は困ってしまった。
「鈴木先生。そういうものって、本当にあるんでしょうか?
私の恩人は嘘をつくような人ではありません。
あの人が善意から言ってくれているのはわかります。
でも、私は、気功の先生にあう勇気もAWCに治療を受ける気にもなれません。
先生、どう思いますか?」
「なるほど」
誠も返事に窮した。
「あのですね、治療法の真偽はおいておいて、とりあえず、その恩人さんを信じているなら、いってみたら、どうですか?
あなたから金銭を奪う目的の悪質な詐欺だったりしたら、すぐに警察に連絡すべきですけど、まず信頼関係があるのなら、試しにいってみればいいと思いますよ」
「うーん・・・」
相談者は、下をむいてうなっている。
「さっきも言いましたけれど、僕は、そういう力はあると思っています。
しかし、それとめぐりあえる人は少ない。
あなたが、幸運が重なって一命をとりとめたのなら、その恩人の方からの誘いも幸運の続きかもしれません。
僕に言えるのは、これくらいですね」
「わかりました」
相談者は、頭を下げて席を立った。
誠は相談者に連絡先を聞いた。
相談の謝礼はとらないが、今後の経緯は気になる。
彼からの連絡が楽しみだ。
END
☆☆☆☆☆
29話めは以上です。
この100物語は、私が聞いたり、体験してきた怪談と創作のミックスみたいな感じです。
今回のエピソードはまんま実話です。
誠のもとにきた相談者は僕(本気で本)です。
恩師から気功の先生とAWGの治療を紹介されました。
迷っています。
オカルトは信じているつもりですが、自分の健康、生命がかかっていると、フットワークが重くなります。
AWGは実在する治療法です。
興味のある方は、 検索してみてください。
今回のは本当に実話怪談ですね。
これまでのブログ同様、ご意見、ご感想、お待ちしてます。