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ヤクザと憲法の評価
☆☆☆☆☆
(今回は☆5つの満点です。題材もアプローチも他に類を見ない映画だと思います。ここでしかできない体験があります)
ヤクザと憲法は2015年に東海テレビが制作、放映したテレビ用のドキュメンタリー番組の同名の劇場版です。
劇場公開は2016年の1月2日でした。
当時、僕は、「年明けそうそうに名古屋の劇場(僕の近隣ではそこしか上映しなかった)までこれを観にいかんといかんのか?」と思いましたが、しかし、この作品は観て損のないドキュメンタリーでした。
過去に実録とめいうたれたヤクザ映画やVシネマはたくさんありました。
この映画はそういう意味では本当のホンモノしかでてこない、まさに真の実録ヤクザ映画です。
冒頭に貼った画像の人たちも全員俳優ではなく、ホンモノのヤクザのみなさんです。
テレビでやる警察24時的番組ともちょっと違って、まず、警察メイン、事件メイン、被害者メインではなく、あくまで反社会勢力であるヤクザの日常を事務所中心で撮影しています。
ネット風にいうならば、ヤクザ事務所から生配信中!! みたいなもんです。
北野武監督のアウトレイジシリーズやVシネマなどの、いわゆるヤクザ映画を観るのが好きな方には、ヤクザのリアルを描いた作品として本作をオススメします。
後述するようにこれは僕自身にとっては、ある意味なじみのある世界の映画でもあります。
これってヤクザ目線というより、ヤクザの家族というかヤクザの周囲にいる普通? の人の目線で作られた作品だと思います。
これまで、ありそうでなかった作品ではないでしょうか?
男女を問わず現在日本(2015年制作)のヤクザに興味のある人には必見です。
見どころはネタバレ感想の項目をご覧ください。
ソフト化されていない作品なので、さわりとして予告の動画を貼っておきますね。
ヤクザと憲法のあらすじ
東海テレビ取材陣、清勇会事務所へ
映画は東海テレビの取材スタッフが指定暴力団・清勇会の事務所を訪れるところから始まります。
狭い階段を上がり事務所についたスタッフを組員たちが迎えます。特に歓迎しているふうもなく、普通の感じで普段着のでおじさんたち数人が事務所にいます。
スタッフは別室へ通され、そこで撮影はストップです。
画面には、「取材の取り決め」が映し出されます。
・取材謝礼金は支払わない
・取材テープ等は事前に見せない
・モザイクは原則かけない
続いて事務所内に置かれたモニターが映されます。
モニターは事務所へ外から上がる階段x1と、事務所の周囲の道路の様子x3です。
武闘派の組だからか、それとも暴力団の事務所はどこもこうなのか、まるで外からの襲撃を警戒している基地か要塞みたいです。
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事務所で日常を過ごす組員たち
TVでは高校野球の中継が流れ、組員はそれを見ながら、札束を封筒に分けていきます。
彼がなにをしているかスタッフは詳しくは聞きませんし、組員も説明しません。
このシーンを見た多くの人は、これは野球賭博の配当金を分けているのでは? と思うはずです。しかし、この作品の特徴として、取材されているヤクザがしている行為に取材陣が注意したりすることはありません。
あくまで傍観者として彼らはヤクザの日常を撮影にしているのです。
「商売の?」
「はん」(作業しながら)
「シノギですか?」
「野球や。高校野球や。な?」(ニヤリ)
次のシーンではまた別の組員に、事務所の上階にある宿泊スペース(寮?)へ案内されます。
何人で使うのか、おそらく10畳はあるスペースできれいに片付いていて、本棚や風呂もあります。
壁には下の画像の「任」「侠」「道」の3文字があります。
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「マシンガンとか」(床に置かれた荷物を見て)
「マシンガンなんてあるわけないじゃないですか」
スタッフと組員のベタなやりとりもあります。
モノがマシンガンだからお互いに「アハハ」みたいな和やかな雰囲気ですみましたが、これが「この部屋に覚せい剤はないんですか?」とかだとシャレにならなかった気もします。
現在の組員は全部で27人というテロップが入ります。
事務所で談笑する組員たちは、けっこう高齢化しています。
近年、ヤクザの組員が減少して高齢化しているという現実がここにもあるようです。
スタッフに紙に筆ペンで手書き、ベテラン組員がヤクザの組織についてレクチャーしてくれます。
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若頭とか普通の組織ではなかなか使わない名称ですよね。
清勇会総会(月例会)
組員一同を集め、若頭が司会をして総会が行われます。
若頭というのは組員たちのまとめ役的な感じですね。
月例の総会は、組の月間の収支報告みたいなものらしいです。
部屋住(事務所に住み込みの新人さん)のみなさんは、ここでお小遣い(月給とは別の手当てらしい)をもらっています。
総会はたんたんと進み、波乱なく終了します。
部屋住みインタビュー
部屋住みの青年のインタビューと日常風景です。
会長を尊敬している旨を話します。
事務所の掃除をしたり、こまごまとした雑事をこなしていきます。
「夕刊を捨てるな」とベテラン組員に注意を受け、生姜焼きを自炊して、オフタイム(?)には畳にあぐらをかいてテレビを眺めます。
シャツをまくると背中には立派なイレズミが。
こうして覚悟をきめて極道の道に入る若者が今もいるのです。
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ここでヤクザというものの歴史、様式、現在などが、物悲しいピアノ曲のBGMに合わせて、簡単に説明されます。
正直、現在の10代、20代の人からすれば、ヤクザはUMAくらいにリアリティのないものかもしれません。
かってヤクザ映画を量産していた東映がいままた、その路線を復活させようとしているのは、現在日本でヤクザがリアルでなくなったからだからではないでしょうか?
川口和秀会長と夜の西成の街を歩く
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清勇会の川口会長とスタッフが夜の西成の街を歩きます。
売春を行っている料亭や古いポルノ映画が上映されている映画館、ライトアップされた通天閣。そんな浪速の街をスタッフを連れて会長が歩いていきます。
暴対法の施行を決定づけたと言われるキャッツアイ事件(たまたま暴力団の抗争の舞台となったラウンジ・キャッツアイで一般人の19歳の女性が巻き込まれ死亡する)で逮捕され、22年の懲役に付いていた本人が、事件を語ります。
事件時の新聞記事、出所時の組内の祝宴の様子も映ります。現在の本人は「こんなん、もともとは無罪や」とカメラの前ではっきり言っています。
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組員のプライベートと違法薬物の受け渡し?
会長の次は今度はベテラン組員に密着します。
墓掃除に行き、電話で連絡を取り、取引相手のアパートへ車で行き、おそらくは違法薬物を渡し、現金を得たところまで撮影しています。
「シノギですか?」
「覚醒剤ですか?」
「覚醒剤じゃないですよ」
「なんですか?」
「それは言えないですよ。それはナイショです」
「クスリではある?」
「えっ!!」
「クスリ」
「それは想像に任せます」
隣にいるスタッフに聞かれても、もちろんはっきりとは答えません。
自宅アパートへ帰ってきた組員は、
「なんにもないそん時に、衣食住、メシ喰わせてくれて、フロつれてってくれて、やってくれたのがアニキ(現川口会長)ですよ。いまの」
と語ります。
「一番しんどい時に助けてくれたっちゅう」
「ヤクザになるというのは自分の中では抵抗なかったですか?」
「全然ないですよ。そんなん全然。
世の中ちゅうのは言うことは言うけど、実際助けてくれんじゃないですか?
助けてくれますか?」
山口組顧問弁護士山之内幸夫
舞台は変わって次は大阪市北区にある山之内法律事務所。
山口組の顧問弁護士として知られる山之内幸夫弁護士の事務所です。
山之内はインビューで山口組とのかかわりを語ります。
過去には組の事件に協力したとして逮捕されたこともある山之内。
しかしその時は裁判により無罪に終わりました。
だが平成26年、山之内は再び、起訴されます。
今度は山口組の器物破損を教唆した罪です。
普通なら罰金で終わる事件なのですが、山口組顧問弁護士を名乗っているので、警察に厳しくマークされているのです。
清勇会部屋住み松山甲尚人(21)の日常
未成年の頃に事務所に入門を希望してきて断られ、成人後、再度、門を叩いて入門を許された人です。
作家の宮崎学のファンで、雑誌で宮崎が川口会長と対談を読んで、そこで語られていた「ヤクザのいる明るい社会」気に喰わない奴がいるなら、ドツいて殺してしまうのでなく、気に喰わん者同士がそれでも一緒に暮らしていく社会がいい社会だと彼は思っているのだそうです。
ヤクザを排除しようとする権力者側の考え方は納得できないと。
「それはどうなんスかねぇ」
ヤクザ(偉いさん)は葬儀場で葬式はできない
朝の清勇会事務所。
取材にきたスタッフに組員は、今日は葬儀があるので事務所はカラになると告げます。
立場が上のヤクザは葬儀場を貸してもらえないので、葬儀は組事務所で行うようです。
東組本部へ葬儀のため、次々と喪服姿のヤクザが集まってきます。
部屋住みの松田も喪服で参列しています。
葬儀屋はダメでも坊主は頼めるのか、葬儀会場となった本部に読経の声が響きます。
そして12月14日衆議院総選挙の日。
清勇会の古参の組員は誰も選挙へ行きません。
「私には選挙権がないんです。それは国籍に関係あるんでしょ」
どうやら、彼は日本国籍ではないようです。
この作品の中では、ヤクザになるものは、ヤクザになる以前から社会から疎外されたマイノリティであることが語られます。
銀行通帳も作れない。保険も加入できない。子供を幼稚園にも通わせられない。それでもヤクザとして生きてゆく人たちの日々。
川口会長は、取材スタッフを前に暴力団排除条例施行によって苦しんでいる全国のヤクザの現状を集めたアンケートを手に語ります。
「ヤクザに人権ないんか?」
部屋住みの松山はそんな状況でも、若頭に個室で叱責され、暴力を振るわれようとも(暴力の現場は音のみでカメラは入れません)涙をこらえながら、組の雑用をこなしています。夜、親子ほども歳の離れた古参の組員が松山に酒をすすめ、励ましてくれます。
今度は組員が自家用車の修理代をめぐって保険会社とトラブルになりました。
そして車両保険の詐欺未遂で逮捕されます。
警察が組員の逮捕を受けて事務所に家宅捜査にきました。
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警察の捜査はものものしく騒がしく、「カメラ撮るな!!」などの怒声が飛び交います。
合法的な捜査をしているはずなのに、なぜここまで荒々しくする必要があるのでしょうか?
裁判の結果がでて、山口組顧問弁護士山之内弁護士は有罪となり、弁護士資格を失うことになりました。
この作品を見ていると、ヤクザでいたり、ヤクザと関わって得をしている人はほとんどいません。取材スタッフは、川口会長に聞きます。
「だったらヤクザを辞めればって話も絶対でてくると思うんですけど、それはどうなんですか?」
「どこで受けてくれる?」
映画は松山に送られる格好でカメラが事務所をでるところで終わります。
事務所の外には静かな夜の街がありました。
ヤクザと憲法のネタバレ感想
もう亡くなりましたが僕の伯父たちがヤクザでした
ネタバレといっても映画自体でなく僕自身のネタバレ? なのですが、僕がこの映画に感情移入できるのは、僕の伯父(父方も母方も)、どちらもそれぞれ関係はなく、偶然、それぞれ中部と九州でヤクザをしていました。
どちらもすでに亡くなっています。(だからこうして書くわけですけど)
どちらも懲役を受けたこともあり、新聞に名前が載った人たちです。
片方は組織の中でけっこう偉い人で、後に実の弟を業界にスカウトして、弟さんは組長にまでなりました。(その方もすでに亡くなっています)
もう片方は下部構成員で、刑務所とシャバを出たり入ったりして、クスリや殺人などの犯罪にあれこれ関わっていたようです。
僕は、これらの親戚と行き来する家庭に育ちました。(僕の父親は一夫多妻の人生を送った、定住しない流れ者でとんでもない人物でしたが、暴力団員ではありませんでした。彼もすでに亡くなっています。ちなみに僕にはいまだあったことのない、異母きょうだいがいます。おそらく一生あわない気がする)
そして、叔父たちの家族が住む家にも親戚の子供として僕はちょくちょく泊りに行ったりしていたので、本作の映画の中の空気には親近感を感じるわけです。
もちろんですが、現在、僕は暴力団員ではありません。(過去にもそうだったことはありません)
ただ、自分の身近に普通に生活しているヤクザがいる環境で育ったので、特に彼らに拒否反応を覚えることはありません。
自分としては、育ちのせいかそういう人に警戒しなさすぎなのが問題だと思っているくらいです。
映画出演者たちは相変わらずヤクザしている
こうして映画になってもヤクザはやはりヤクザなので、彼らは現在も非合法的な活動を行っています。
この映画出演者が2018年10月2日に大阪府警布施署が暴力行為等処罰法違反で逮捕されました。
わかりやすく書くと、大阪市内のビルの建設資金約500万円の支払いを免れるため、建設関係者の男性を組員10名ほどで取り囲み脅迫したそうです。
指定暴力団・二代目東組の二次団体である二代目清勇会は、そもそも武闘派で少数精鋭と言われ、山口組などの巨大組織に吸収されることもなく、独立して活動を続けている任侠団体なので、そりゃ、普段はこういうことをシノギ(仕事)としてやりくりしてるんだろうな、と思います。
Wikipediaで東組を見てみると、主な活動は覚醒剤・児童ポルノの密売と記されています。
そこから考えると今回逮捕された件は、組のメイン収入源ではない副業ではあるけれども、こでに成功? すれば、恐喝の依頼主からいくばくからの謝礼がもらえたりするシステムになっているのでしょうか?
こうした非合法で大きなお金が動く仕事にかかわっているへんがヤクザなんだと思います。
逮捕時のニュース動画を下に貼っておきます。
「ヤクザと憲法」出演の東組二代目清勇会若頭 大野大介が恐喝で逮捕
同じく東組組員の逮捕ニュースを貼っておきます。こちらは大麻です。
20億円分の大麻とかすごいですね。
あの映画の日常生活の見えない部分ではこうした活動が行われているんですね。
ネタバレというか、映画とニュースを続けて見ると、やっぱろそういう人たちなのか、と納得してしまいます。
ヤクザと憲法の最後に
特に大きなドラマもない本作ですが、見終った時、ヤクザはイヤだと深い嫌悪感を抱いた人は少ないと思います。
「上にいるヤクザは人たらしだから、むこうのペースで話をさせたら、嫌いになるのは難しいよ。
気がつけばむこうのペースに乗せられてる。
この映画のヤクザもそうだよ」
なんて言う人もいるかもしれません。
たしかに実生活で、直接、トラブルにあわなければ、ヤクザを心から嫌いになるのは難しいと僕も思います。
法にふれる仕事をしているにもかかわらず、個人としての彼らは魅力的だったり、親しみやすかったりします。
フィクションと現実は別ものですが、これからもヤクザが登場する映画やマンガは作られ続けて、愛され続けていくでしょう。
そんな中で、劇的加工がほとんどないこの作品は、今後も変わらない価値を持っていくと思います。
取材するだけでも身に危険が及びかねない、反社会勢力の内側からドキュメンタリーを制作した東海テレビには敬意を感じます。
東海テレビさん、お疲れ様でした。
☆☆☆おまけ☆☆☆
この作品を見たくても現在(2018.10)ソフト化されていないので、youtubeにあったダイジェスト版を貼っておきますね。
よろしければお楽しみください。